回虫症とトキソカラ感染症について
犬・猫に寄生する回虫症とトキソカラ感染症
ペットの犬や猫に回虫が寄生することがあります。
犬にはイヌ回虫、猫にはネコ回虫がみられ、どちらもトキソカラ属に分類されています。イヌ・ネコ回虫が人に感染し、人の体内を移行することをトキソカラ感染症といいます。
イヌ・ネコ回虫の感染源はふたつ
回虫の卵は糞と一緒に排出されます。
イヌやネコが散歩中などに感染した糞に触れ、毛づくろいの時に卵を飲み込んでしまうことで感染します。
感染したイヌやネコと濃厚な接触をすると人に感染することがあります。
ニワトリやウシも回虫の卵を飲み込むと感染します。感染したニワトリやウシの生肉を人が食べることで感染することもあります。
トキソカラ感染症の症状
イヌ・ネコ回虫が人に感染し、幼虫移行が起きるとトキソカラ感染症になります。
ほとんどの場合無症状ですが、吐き気や下痢といった胃腸障害を起すことがあります。
抵抗力が弱い人が感染すると、肝臓が腫れたり肺炎を起すことがあるそうです。
幼虫が眼に移行する眼トキソカラ感染症は、視界が狭くなったり視力低下の症状が現れ、失明した例が報告されています。
イヌ・ネコ回虫、トキソカラ感染症の予防
犬や猫を飼い始めたら動物病院で糞の検査を受けます。必要であれば虫下しの薬で駆除を行い、ペットのトイレ用品は熱湯消毒をします。
散歩中に感染することがあるので、糞の検査は定期的に行うと安心です。
イヌやネコに口移しでエサを与えたり、キスをしたりするような濃厚な接触はやめましょう。
肉類は十分加熱してから食べるようにしましょう。
犬や猫の口にいる菌が原因!パスツレラ症について
パスツレラ症の感染源、症状、予防について
パスツレラ症はパスツレラ属菌の一種であるパスツレラ・ムルトシダという菌が原因で発症するズーノーシスです。
猫の口の中にほぼ100%、犬の口の中では約75%と高い保菌率で存在しています。
パスツレラ症の感染源
猫、犬に咬まれたり、引っかかれたりすることで感染します。
唾液中に含まれるパスツレラ・ムルトシダがくしゃみなどで飛沫感染することもわかっているそうです。
パスツレラ・ムルトシダ猫や犬の他、多くの哺乳動物が保菌しているので注意が必要です。
パスツレラ症の症状
犬や猫に咬まれたり引っかかれたりした傷が腫れたり化膿したりします。
その後風邪や肺炎のような症状が続きます。
喘息などの呼吸器疾患、糖尿病などの持病がある人がパスツレラ症を発症すると重症化することがあり、死亡例も報告されています。
診察をした医師がズーノーシスに関する知識を持っていない場合、風邪や肺炎の診断をすることがあるそうです。
正確な診断をしてもらうためには、いつペットに咬まれたか、いつ症状が出たかを伝えることが大切です。
パスツレラ症の予防
ペットと遊んだ後は石鹸で手を洗いましょう。キスなどの濃厚な接触をしてはいけません。
持病がある人は、病気が悪化しないようにするためにもペットを飼う前に医師に相談しましょう。
猫を飼ってる妊婦さんは注意!トキソプラズマ症について
妊娠中に気をつけたいトキソプラズマ症
妊娠中にトキソプラズマ症に感染すると流産の原因になったり、先天性トキソプラズマ症の赤ちゃんが生まれることがあります。
血液の中で増殖したトキソプラズマ原虫が胎盤を通じて赤ちゃんに移行することが原因です。
多くの人がトキソプラズマの抗体を持っており、妊娠する6ヶ月以上前の感染なら心配ないといわれているようです。
心配な場合は、妊娠を希望する前にブライダルチェックのひとつとしてトキソプラズマ抗体検査を受けておくと安心です。ちなみに男性には必要ない検査です。
トキソプラズマ症の感染源
ネコの糞や、トキソプラズマに感染した豚の肉を加熱不十分のまま食べることで感染します。
トキソプラズマ症の症状
健康な人は感染しても症状がでることがないまま経過します。
しかし、抵抗力が弱い高齢者や免疫不全の人がトキソプラズマ症に感染すると、肺炎や脳炎など重症化することがあり死亡するケースもあります。
トキソプラズマ症の予防
猫の糞を処理する時は必ずスコップを使いましょう。直接糞を触ってはいけません。
当然のことですが、猫の糞を口に入れてはいけません。
猫のおしりにキスをしてはいけません。
衛生面に気をつけることが一番の予防になります。
妊娠中はノラネコが立ち寄る庭でのガーデニング、公園での砂場遊びは控えましょう。
妊娠中に新しくネコを飼うことは控えましょう。
肉類(特に豚肉)は完全に加熱処理をしてから食べましょう。
トキソプラズマはマイナス20度でも生き残るので、肉類を冷凍保存した場合もよく加熱しましょう。
ジアルジア症は多くの動物が持つ寄生虫が人に感染するズーノーシス
ジアルジア症は多くの動物が感染しています。
ジアルジア症は、ランブル鞭毛虫という寄生虫が原因のズーノーシスです。
私たちの身近にいる犬やネコの他、ネズミ、シカ、ウシ、ブタなどの哺乳動物が感染しています。
ランブル鞭毛虫は、哺乳動物の腸に寄生し、便と一緒に排出されます。
ジアルジア症の感染源
ジアルジア症に感染している動物の糞が直接口に入ることで感染します。糞で汚染された水が口にはいることでも感染する場合があります。
アメリカ国立衛生研究所の調査によると、80匹の犬と16匹の猫の糞を調べたところ12%のイヌ・ネコからランブル鞭毛虫(ランブル嚢胞)が見つかったそうです。
そのうちの何匹かはブリーダーが育てている犬から見つかっているようです。
ペットショップのトリミングなどでイヌが集団感染することもあるそうです。
ジアルジア症の症状
ジアルジア症が発症すると下痢の症状が続きます。
慢性化すると栄養が吸収できず衰弱してしまうことがあります。
ジアルジア症の予防
犬から人へ感染する可能性は低いとされていますが、イヌと一緒に入浴しない、糞の処分はスコップを使うといった基本的なルールを守りましょう。
そして、不衛生な水場での水遊びはひかえましょう。
カメなど爬虫類から感染するサルモネラ症
サルモネラ症の感染源、症状、予防について
サルモネラ症の原因であるサルモネラ菌は、食中毒の原因菌として知られています。
サルモネラ菌は主にカメなどの爬虫類が保菌していますが、犬や猫、両生類、ハトなどが保菌していることもあり、サルモネラ症は身近なズーノーシスといえます。
サルモネラ症の感染源
サルモネラ菌に感染している動物に触ったり、水槽の掃除をする時に菌が手についたりしたあとに食べ物に触れたりすることで経口感染します。
アメリカでは、カメ、トカゲ、ヘビなどの爬虫類から感染するサルモネラ症が年間5万から10万件程発生しているそうです。日本でも増加傾向にあります。
サルモネラ症の症状
サルモネラ菌に感染すると吐き気、嘔吐、下痢などの胃腸障害があらわれます。
抵抗力が弱い高齢者、乳幼児は重症化し、ごく稀に死亡することもあります。
サルモネラ症の予防
動物に触った後や水槽の掃除をした後は、石けんで丁寧に手を洗いましょう。
アルコール除菌もしたほうが望ましいといえます。
子供に人気があるミドリガメは7割以上がサルモネラ菌を保有しているといわれています。
ミドリガメは乳幼児がいる家庭には適さないペットです。
ミドリガメをはじめ、エキゾチックアニマルと呼ばれるペットは、ズーノーシスの感染が広がる原因として懸念されています。
エキゾチックアニマルとは― 爬虫類(カメ・イグアナ・ヘビ等)、両生類(カエル・アホロートル等)、げっ歯類(プレーリードッグ・チンチラ・モモンガ等)、従来のペットとは違う珍しい動物のことをいいます。
エキゾチックアニマルは、野生の動物を違法に輸入・繁殖している可能性があり、まだ解明されていないズーノーシスが家庭に持ち込まれる危険が指摘されています。
鳥から人に感染するオウム病
オウム病は増加傾向にあるズーノーシス
オウム病は、鳥類クラミジア感染症とも呼ばれるズーノーシスです。
オウム病という名がついていますが、オウム以外の鳥も感染源になります。
日本ではセキセイインコからの感染がよく知られていますが、カナリア、九官鳥、カモメ、アヒルなどからもクラミジアが見つかっています。
2002年島根県の市営動物園でオウム病の集団発生が起きました。
オウム病に感染した鳥の糞から、入園者と従業員が感染したそうです。
同じ年、哺乳類からオウム病に感染したという珍しい事例も報告されています。
ヘラジカの分娩介助をした獣医師がオウム病に感染したそうです。
オウム病は、ペットとして鳥を飼っていなくても、動物園やペットショップから感染する可能性があるズーノーシスであることを覚えておきましょう。
オウム病は、オウム病に感染している鳥の糞や鼻汁に含まれている菌を吸い込むことで感染する吸入感染と、キスやエサの口移しなどの濃厚な接触で感染する経口感染があります。
オウム病の症状
オウム病に感染すると38度以上の高熱、頭痛、だるさといったインフルエンザのような症状が現れます。肺炎や気管支炎の症状がみられることもあるようです。
オウム病は、抗生物質の服用で治療することができます。しかし、適切な治療がされない場合、呼吸困難、敗血症などを引き起こし、稀に死亡することがあります。鳥を飼っている人にインフルエンザのような症状が現れた場合、医師に鳥を飼っていることを伝えましょう。
オウム病の予防
普段から鳥かごの掃除をこまめにし、口移しでエサをあたえないようにしましょう。
オウム病に感染した鳥は、元気がなかったり下痢などの症状が現れます。
飼っている鳥にいつもと違う様子があらわれたら動物病院で診察を受けましょう。
犬の95%が保菌している!?カプノサイトファーガ感染症とは
カプノサイトファーガ感染症
犬の口の中に住んでいる菌が原因で感染するズーノーシスです。
カプノサイトファーガ属の菌が発見されてからまだ30数年ほどしか経っていません。ですから、比較的新しいズーノーシスといえます。
カプノサイトファーガ感染症の感染源
犬やネコの口の中に存在するカプノサイトファーガ菌は咬まれたりすることで人の体内に入り感染します。
カプノサイトファーガ感染症の症状
カプノサイトファーガ感染症は発症すると発熱、嘔吐、下痢などの症状があらわれますが、健康な人はほとんど問題がありません。
病気や高齢などで免疫システムが弱っている人が発症すると、ショック、髄膜炎、敗血症で亡くなることがあります。
デンマークでは、1982年から1995年の間に39例のカプノサイトファーガによる敗血症が確認されたそうです。
そのうち、アルコール依存症、すい臓摘出をしている人をふくめ12人が亡くなっているようです。
カプノサイトファーガ感染症予防
日本で飼われているイヌを調査したところ、95%~96%のイヌが保菌していることがわかっているそうです。
免疫システムが弱っていると思われる人(高齢者、血液疾患など)は犬に咬まれないよう特に注意が必要です。
現在のところ、予防接種などの対策はとられていないようですが、抗生物質の服用で治療することができる感染症です。